【書評】NPOカタリバがみんなと作った 不登校ー親子のための教科書

書評

「amazon カテゴリ:子どもの文化」でベストセラー1位
「NPOカタリバがみんなと作った 不登校ー親子のための教科書」を読みましたのでご紹介します。

 

お子さんが不登校、もしくは長期でお休みし始めて不安な親御さんが
“まずはじめに”読まれるのに適した書籍です。

 

不登校が誰にでも起こりうること、不登校であっても将来は選択できることを前提として書かれた書籍の為、今の不安や将来の不安が和らぎ、お子さんとの関わり方や将来を検討するにあたってのヒントを得ることができます。

 

「NPOカタリバがみんなと作った 不登校ー親子のための教科書」のあらすじ

著者はNPO法人カタリバの代表 今村久美さんです。
NPO法人カタリバは、2001年に創設された子どもの学習・教育・居場所支援を行うNPOです。

本書では2015年より「不登校」の問題に取り組み、不登校の子どもたちの変化を目の当たりにした著者が以下の内容について紹介しております。

  • 「不登校」についての基礎知識
    – 不登校の子どもはどれだけいるのか?
    – 不登校の原因は特定が難しい
  • 不登校傾向のある子どもへの関わり方
  • 学校や先生との関わり方
  • 相談機関や支援施設
  • 不登校の子の進路の選択肢

 

まなびポイント

不登校に関連する書籍やWebページは世間に多く存在しておりますが、
特定の原因や解決策を絶対的なものとして紹介しているものには違和感を感じずにはいられません。

同じ「不登校」であっても、子どもの性格、子どもを取り巻く環境(学校、家庭、地域)は大きく異なります。そうであるならば、「不登校」という状態に対する原因や解決策も多様であるはずではないでしょうか。

その前提に立った時に、以下のポイントは「不登校」に向き合うにあたって、
まず考えるべき重要な視点であると考えられます。

不登校の原因は複雑に絡み合っている為、原因特定はあまり意味がない

したがって、原因を特定することはあまり意味がない。

例として発達障がいが挙げられておりますが、仮に子どもが発達障がいの診断がついていても、その子に適した環境に居れば問題は必ずしも起きません。

問題が生じるのは、単一の原因が存在するのではなく、複数の要因が絡み合って、
負のスパイラルを引き起こしていることを前提とし、「原因」よりも「解決策」を検討することが大切となります。

不登校支援は、社会的自立を目指すこと

2019年文部科学省は、「不登校児童生徒への支援は、『学校に登校する』という結果のみを目標とするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指す」ことを明示しました。

子どもが不登校になったとしても、「学校に戻る為」に働きかけなくてはいけない訳ではなく、あくまで子どもの将来のために、学校以外の場での学びの場を探せば良いと国としても認めていることを意味します。

 

子どもが回復するプロセスを知り、その状態にあった支援、声かけを行うこと

NPOカタリバでは、「支援の5ステップ」として
子どもが回復するプロセスと支援の方向性を以下のように整理されていることが紹介されております。

❶休み始め〜初期

  • 状態:「行きしぶり」を始める
  • 観察ポイント:体調・食事・睡眠などの様子
  • 支援:子どもの話をゆっくり聞く、葛藤や不安を受け止める
  • 効果的な声かけ:「今日の『疲れ度』は5段階のどのへん?」

❷休養前期

  • 状態:心のエネルギーが涸れて、部屋に閉じ籠ったり、昼夜逆転等が起きる
  • 観察ポイント:家族への関わり方、先生や支援スタッフへの関わり方(暴言や幼児返り等)
  • 支援:家庭内のみでの対応が難しくなる為、学校や関係機関と協力体制を作る
  • 効果的な声かけ:温かく励ます

❸休養後期

  • 状態:エネルギーは低いけれど、家の中で落ち着いてきたり、家族と出かけることができる
  • 観察ポイント:趣味や遊びへの興味、運動や家事への参加状況
  • 支援:子どもと相談しながら、小さな目標やステップを設定する
  • 効果的な声かけ:「居場所」について話してみる

❹回復期

  • 状態:心のエネルギーが溜まってきて、友達との遊びや学習への意欲、将来への興味が芽生える
  • 観察ポイント:「家にいるのも退屈」「なんだか暇…」といった発言
  • 支援:本人の決断、ペースを尊重しながら、子ども自身の意思決定を促す
  • 効果的な声かけ:「勉強をサポートしてくれる場所があるみたいだけれど、一緒に行ってみる?」

❺復帰期

  • 状態:生活リズムが整い、相談室や保健室などを利用し、部分的な登校ができる
  • 観察ポイント:無理をしていないかどうか、体調や勉強への取り組み状況
  • 支援:集団教室へ戻ることなどを急がず、ここまで復帰したことを認めて子どものペースにあわせる

 

お子さんがどのプロセスにいるのかを注意深く観察し、会話していくことで、無理に登校や社会復帰を促すことなく、適切な距離感で支援を行うことができると考えられます。また、上記状態を子どもは行き来する為、長期的スパンで先を急ぐことなく、子どもを見守る姿勢が重要になります。

 

感想

「不登校」に関して、まず知っておくべき情報が広く、わかりやすくまとまっており、不登校にまつわる知識の全体像を理解するのに適した書籍だと感じました。

また、「子どもへの声の掛け方」「支援の仕方」については、個人の経験や意見に偏ったものではなく、数多くの不登校の子どもたちと関わられてきたうえで、多くの子どもたちに共通するであろう内容をフラットな立場で書かれている為、多くの方が読んで価値を感じられるのではないでしょうか。

特に個人的に勉強になった点が、支援を考えるにあたって「原因-解決策」の枠組みではなく、「子どもの状態-解決策」の枠組みで考える点です。

前述したように、不登校の原因は単一ではなく様々な要因が絡み合っている為、何か一つの原因を特定し、取り除いたらすぐに復帰できるというものではないように感じます。

加えて、「子ども自身も原因がわからない」「原因探しにより、保護者の方もご自身を責めてしまう」ケースなども多々あることを考慮すると、子どもの状態を中心に、適切な関わり方を考えることは関わる方皆様にとっても健全なアプローチであるのではないでしょうか。

 

「NPOカタリバがみんなと作った 不登校ー親子のための教科書」のまとめ

「不登校」についての前提知識から、子どもへの関わり方、相談先・居場所・進路の選択肢まで、
網羅的に知ることができる書籍です。「不登校」について考える際の、まずはじめの一冊として是非ご一読ください。