【映画評】プリズンサークル – 人は何故罪を犯し、そこからいかにして更生するのか

映画評

少し前ですが(2023年12月)、渋谷のシアター・イメージフォーラムにて
映画「プリズンサークル」のアンコール上映があり、鑑賞しましたのでその感想を共有します。

映画「プリズン・サークル」公式ホームページ
取材許可まで6年、撮影2年 初めて日本の刑務所にカメラを入れた圧巻のドキュメンタリー映画『プリズン・サークル』2020年1月25日(土)公開

 

「観る前と後では世界の見方が変わる」と言えるような、強烈な鑑賞体験だった為
いつもより更に気合いを入れて執筆できればと思います。

(※ネタバレありです)

 

配信サービスには無い為、気軽に観ることができない作品ですので、
この作品の内容や(私が考える)見るべき意味をお伝えしたいなと思います。

そしてこの記事を読んだ方が、今も続く各地での上映会に足を運んでいただけたらそれほど嬉しいことはありません。

 

 

・映画「プリズンサークル」に興味があったけれど見る機会を逃した
・犯罪を犯す人の心理に興味がある
・人が変化することに興味がある
・心理療法が効果があるのかを知りたい
など、人や心理に興味がある方、というより社会に興味がある方、というより
皆様!にぜひご一読いただきたいです。

 

舞台は官民協働の刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」。

そこでは日本で唯一、
「TC(Therapeutic Community=回復共同体)」という更生を目指すプログラムを実施している。

プログラムの中では、受刑者同士の対話を通して犯罪、自身の過去、自身の思いに向き合う。

彼ら自身の言葉で明らかになる、

犯罪を犯すまでの個人の歴史と、

TCの中で個人が変わっていくまさにその瞬間を捉えたドキュメンタリー作品です。

 

プリズンサークルの感想

鑑賞後の私の感想をまとめると、

「もしその環境で育っていたならば、私も罪を犯すだろう」

につきます。

 

「犯罪者」と聞くと、どうしても「その人の悪さ」に焦点が当たります。

しかし誰しも「犯罪に至るまでの歴史」があり、

(今回の場合には)そこには虐待や貧困など、「その人をそうさせた環境」が存在します。

 

刑務所の中で「犯罪者の方」が「自分は被害者である」から「ここまでしても許されるであろう」という想いがあった
と述べられておりました。
映画を観た後、その言葉のリアリティを改めて実感します。

 

そして、自身への自戒としては、とにかく

物事を一面で判断しないこと。

そしてその為には、その意識のみならず、このようなドキュメンタリーを見ることも含む

多様な学びや機会によって得られた知識をもとに、想像力を働かせること。です。

 

 

プリズンサークルの舞台挨拶

実は渋谷のシアター・イメージフォーラムでの上映初日に鑑賞した為、
映画鑑賞後、監督と当事者の方の舞台挨拶まで拝見させていただきました。

 

そこでとても印象的だったことが、観覧者から当事者の方へのご質問に対する回答です。

 

「何がきっかけで変わることができたのか?」という質問に対して、以下の3つのことをあげていました。

  1. 窃盗された側の方の気持ちを初めて知り、窃盗が何故いけないのかを理解したこと
  2. エンプティチェアのワークで、自分の中の違う考えに気づき、葛藤を解決することを体験できたこと
  3. 今までは嫌なことがあった際に窃盗するしかなかったのが、他人の思考を聞いて、違う対処法がわかったこと

 

以下前提情報と、詳細を記載します。

 

❶窃盗された側の方の気持ちを初めて知り、窃盗が何故いけないのかを理解したこと

当事者の方は「窃盗が何故いけないのか?」が刑務所で対話を続ける中でも、なかなか理解することができませんでした。

「お財布が取られたとしても、この人の人生にそこまでの影響はないはず」といった考えがあったとのことです。

 

しかし、実際にTCで「トラックの中で自身の仕事道具が盗まれ、生活に困り、犯罪を犯すに至った」エピソードを聞き、

「窃盗」によって相手がどれだけ苦しむのかを理解し、そこで初めて罪の意識が芽生えた

とのことです。

❷エンプティチェアのワークで、自分の中の違う考えに気づき、葛藤を解決することを体験できたこと

エンプティチェアとは、自身との対話を促す心理療法の1つです。

ワークの順序としては、

  1. 椅子を向かい合わせに2つ置き、片方に本人が座り、もう片方は空席とします。
  2. 空の椅子に向かって、自分の考えを言葉にします。
  3. もう片方の椅子に移動し、その考えに対する反証や感想を述べます。
「自分の中に二つの相反する考えがあり、その両者での会話を促す」形式もあれば、
「自分と、自分が話しにくい相手になりきって、両者での会話を促す」といった形式もあります。

映画の中でも、実際のワークの場面が登場します。

このワークの中で、

当事者の方は初めて自分の思いと正直に向き合い、気持ちと折り合いをつけられていったように感じられました。

 

❸今までは嫌なことがあった際に窃盗するしかなかったのが、 他人の思考を聞いて、違う対処法がわかったこと

TCの中で行われていたのは、ストレスマネジメントを目的とした認知行動療法も行われておりました。

当事者の方は今まで、

むしゃくしゃする(ストレスを感じる)▶️窃盗をする(ストレスに対処する)

というストレス対処方略(対処する方法)しか持っておりませんでした。
しかし、他の受刑者の方とお話しする中で、

むしゃくしゃする(ストレスを感じる)▶️スポーツをする/人と会話する/美味しい食べ物を食べる

といった他のストレス対処方略が存在することを知り、そこから窃盗以外の方法で対処できるようになったとのことです。
(上記方略は例になります)

 

プリズンサークルの舞台挨拶の感想

上記一読されてどのように感じられたでしょうか?

多くの人にとっては「至極当たり前のこと」だと一見感じてしまうことではないでしょうか。

 

しかし「盗みはいけない」「嫌なことがあったとき、自分にあったストレス発散をする」といった価値観やスキルは、

無意識のうちにどこかの段階で学習しているから、

私たちはそれを当たり前だと認識できるのだということを、私は改めて学びました。

 

プリズンサークル 臨床心理学の観点から

大学院で様々な心理療法を学ぶのですが、正直な話、
現場に出る前の段階では本当にその心理療法が意味があるのか?と実感を持てておりませんでした。

しかし当事者の方が「エンプティチェア」やABCモデルに基づく「認知行動療法」により、
新しい考えや視点やスキルを得て、変化していく経過を目の当たりにすることで、
心理療法は価値があるものなのだ、と改めて感じることができました。

 

プリズンサークルにご興味を持たれた方へ

今でも全国の劇場でアンコール上映がされております!

劇場イベント情報は以下をご覧ください。

映画「プリズン・サークル」公式ホームページ
取材許可まで6年、撮影2年 初めて日本の刑務所にカメラを入れた圧巻のドキュメンタリー映画『プリズン・サークル』2020年1月25日(土)公開

 

また、基本上映料金:50,000円にて、自主上映も可能です。

是非学校や職場、地域のコミュニティでの上映もご検討ください。

映画「プリズン・サークル」公式ホームページ
取材許可まで6年、撮影2年 初めて日本の刑務所にカメラを入れた圧巻のドキュメンタリー映画『プリズン・サークル』2020年1月25日(土)公開

 

映画はハードルが高い…という方には、書籍もあります。

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少し長くなってしまいましたが、最後まで読んでいただいた皆様に感謝!