【不登校関連】「不登校の要因分析に関する調査研究」の要約と解釈

不登校関連調査
3月26日に、2023年度に文部科学省の委託を受けた
公益社団法人「子どもの発達科学研究所」が実施した不登校の実態調査の結果が発表され、
不登校当事者の児童生徒と保護者、教員で要因の認識に差があったことが明らかになりました。
文部科学省はその結果をうけて「問題行動・不登校調査」の調査方法の見直しを発表しました。

 

本記事では結果自体がとても勉強になる内容でしたので、

「不登校の要因分析に関する調査研究」の内容を

要約し、読み解き、気になる点を取り上げていきたいと思います。

 

吹き出しに、個人の意見や解釈を記載しております。

 

「不登校の要因分析に関する調査研究」 概要

2023年度に文部科学省の委託を受け、
公益社団法人「子どもの発達科学研究所」が以下の目的のもと調査を実施しました。

不登校要因調査の目的

不登校要因調査は、以下3点を目的に実施されました。

(1) 不登校の関連要因について、特にリスクを高める要因を明らかにする

(2) 「無気力・不安」群の詳細を把握し実態をつかむ

(3) 学校内外の専門機関等で相談・指導等を受けていないと報告された児童生徒の実態等を調査し、把握する

 

不登校要因調査の対象/方法

【対象】
①児童生徒(2022年度に小学3年生から高校1年生であった児童生徒)
②保護者(上記児童生徒の保護者。ただし、中学3年生を除く)
③担任教師等

【方法】
①児童生徒②保護者対象調査は 原則Web 調査(一部は紙面による回答)
③担任教師対象等は、学級単位で作成したエクセルシートを用いて実施

 

「不登校の要因分析に関する調査研究」 結果要約

上記の目的に沿って結果を要約します。

(1) 不登校の関連要因について


【回答数】

教師:1,424 名、児童生徒:239 名、保護者: 200 名

【調査の方針】
不登校の要因を以下の3つに分類し調査を行うことにより、リスク評価と支援の方向性を詳細に把握する。

・きっかけ要因:直接的な不登校のきっかけ=動的要因(外部からの働きかけにより変わりうるもの)
 ⇒積極的介入・支援の対象
・背景要因:不登校の背景となった要因=静的要因(変化が難しいもの)
 ⇒合理的配慮の対象
・保護因子不登校のリスクを軽減しうる要因

「きっかけ要因」について

引用:文部科学省委託事業 不登校要因分析に関する調査研究 報告書

「不登校児童生徒の回答」と「対象別の回答差分が顕著な回答」をそれぞれ以下にまとめます。
【きっかけ要因】不登校児童生徒の回答

・心身不調・生活リズム不調:約7〜8割
項目:「体調不良の訴え」「不安・抑うつの訴え」「居眠り、朝起きれない、夜眠れない」・学習面:約5割
項目:「学業の不振」「宿題ができていない等」・生活、特性面:約4割
項目:「感覚の敏感さ」「ゲーム・スマホへの依存、依存傾向」・「学校」への不適応:約3〜4割
項目:「制服、給食、行事等への不適応」「教職員への反抗・反発」

個人的な見方ですが、きっかけ要因として「心身不調・生活リズム不調」があげられておりますが、本来的にはその背景に、自身でも気づかない「心身不調・生活リズム不調」に繋がる要因が存在しているかと思います(もともとの生物的要因や、学校システム、教師と合わない、または家庭での問題といった社会的要因等)。ただ、その要因には容易に気付けないとした際に、無理して突き詰めることにはそこまでの価値はないかと思いますので、あくまで現状把握の際に頭に留めておきたいと思ったこととして記載しております。

【きっかけ要因】対象別の回答差分が顕著な回答
以下の項目において、教師と児童生徒・保護者の回答割合に違いがみられました。

・心身不調・生活リズム不調
(項目:「体調不良の訴え」「不安・抑うつの訴え」「居眠り、朝起きれない、夜眠れない」)
▶️児童生徒・保護者:約7〜8割
▶️教師:2割弱
・学校内トラブル
項目:「いじめ被害」
▶️児童生徒・保護者:約2〜3割
▶️教師:1割未満(4.2%)
項目:「教職員への反抗・反発」
▶️児童生徒・保護者:約3〜4割強
▶️教師:1割未満(3.5%)
項目:「教職員からの叱責」
▶️児童生徒・保護者:約1.5〜2割
▶️教師:1割未満(2.0%)

心身不調・生活リズム不調に関しては、教師が気付きにくいこと、また、いじめや教職員とのトラブルについては教職員へのアンケートでは明らかにならないことがわかります。

「背景要因」について

引用:文部科学省委託事業 不登校要因分析に関する調査研究 報告書

児童生徒対象調査には当該項目は含まれておりません。
教師と不登校児童生徒の保護者の回答に顕著な差異はなく、
以下が背景要因として多いことがわかります。
【背景要因】教師と不登校児童生徒の保護者の回答

・きょうだいの不登校:約3〜4割
・発達障がいの診断、疑い:約2〜3割・ひとり親家庭、共働き家庭:約2〜3割

不登校児童の背景要因として発達障がいの診断、疑いが約2〜3割あるという結果は、着目しなくてはならない点ではないでしょうか。発達障害が、上記きっかけ要因の「学習面」や「生活面」「学校への適応」に影響している可能性も考えられます。背景要因をふまえ、きっかけを作らないよう、早期に個別の学習支援や合理的配慮を行うことが求められていると言えるでしょう。

「保護因子」について

「不登校のリスクを軽減しうる要因」を意味する保護因子としては、以下が挙げられました。
※表中に割合の表記がない項目については、その対象者への質問項目が含まれていません。

引用:文部科学省委託事業 不登校要因分析に関する調査研究 報告書

【保護因子】不登校児童生徒の回答

・「仲の良い友人がいる」:8.5割強
・「家庭での良好な関係」:8.5割弱

・「授業・行事・活動への積極的な参加」:6.5割
・「学校外の友人関係」:6.5割弱
項目:「制服、給食、行事等への不適応」「教職員への反抗・反発」
【保護因子】対象別の回答差分が顕著な回答
以下の項目において、教師と児童生徒・保護者の回答割合に違いがみられました。

・「授業・行事・活動への積極的な参加」
▶️児童生徒:6.5割
▶️保護者:4割弱

▶️教師:1.5割
・「人とのかかわり、感情コントロールが得意」
▶️児童生徒:6割強
▶️保護者:5割強

▶️教師:1割強
・「教職員との良好な関係」
※上記項目のみ、教職員の回答が児童生徒の回答の割合よりも高い結果となっております。
▶️児童生徒:5割弱
▶️保護者:5割強
▶️教師:6割

「保護因子」については、全般的に教師、保護者以上に児童生徒本人が「あった」(様々な要因が不登校のリスク軽減につながった)と回答していることがわかります。

本ブログでは割愛しますが、その他、不登校の児童生徒と不登校ではない児童生徒の差についての比較検討も行われている為、詳細は調査をご覧ください。

 

(2) 「無気力・不安」群の詳細について

【背景】
2022年の文部科学省による問題行動調査において、不登校の主要因が「無気力・不安」であると報告されました。その詳細を把握するため、本調査が実施されました。

【調査方法】
教師、児童生徒、保護者それぞれの回答を以下のように比較しております。

・教師
問題行動調査で不登校の主たる要因が「無気力・不安」であると報告された児童生徒と、そうではない生徒について、「きっかけ要因」の回答を比較

・児童生徒/保護者
問題行動調査で不登校の主たる要因が「無気力・不安」であると報告された児童生徒のうち、本人から回答が得られた回答と、主たる要因が「無気力・不安」以外であると報告された児童生徒の「きっかけ要因」回答を比較

本項目については、詳細は割愛しますが、要点をまとめると以下になります。

【要点】

  • 教師、児童生徒、保護者の回答には乖離があった
  • 児童生徒の回答では、「無気力・不安」群と「無気力・不安」以外の群とでは統計的な差は見られなかった
  • 保護者による回答では、「無気力・不安」群の保護者の方が「学校の決まりのこと」「親のこと」がきっかけとなったとする回答が多かった。
  • 教師が不登校の要因を把握できていない場合に「無気力・不安」と回答している可能性がある
  • 教師回答で「不安・抑うつの訴え」に該当するものは「無気力・不安」以外の群では19.3%、「無気力・不安」群では18.4%と後者が高かった(=「無気力・不安群」の方が「不安・抑うつの訴え」がないように教師からは見えている)が、児童生徒回答では無気力・不安群もそうではない群も「気持ちの落ち込み・いらいら」があったと回答したものが7割を超している

 

「無気力・不安」というのはあくまで「抑うつや気持ちの落ち込み」、または、その他自身からも他人からも気づかれないきっかけ等によって表面的に現れた状態であって、「無気力・不安」という不登校の原因はそもそも存在していないのでは?という見方もできるかと思います。

(3) 学校内外の専門機関等で相談・指導等を受けていない児童生徒の実態

【背景】
2022年の文部科学省による問題行動調査において、不登校児童生徒1,421人のうち62.4%が相談・指導等を受け、約4割となる37.6%が相談・指導等を受けていないと報告されました。その差異を把握する為に調査が行われました。

本項目についても、詳細は割愛しますが、要点をまとめると以下になります。

【要点】

相談・指導をうけていない児童生徒の方は、相談・指導をうけている児童生徒と比較して、

  • きっかけ要因として「授業がわからない」「宿題ができない」といった学業面での問題が多く見られた
  • 背景要因としては「特別支援教育のニーズ」「発達障害の診断・疑い」「身体的疾患・障がい」「睡眠障害の診断・疑い」「心理・精神的な問題の診断・疑い」「感覚の過敏さ」等の心身の問題を持つ割合が低い
  • 一方で「要対協、要保護の対象」「ひとり親家庭、共働き家庭」である割合が高い
  • 一番最初に学校に行きづらい、休みたいと感じ始めたときのきっかけは「すべて解消された」という回答の割合が高い(翌年の登校状況にも差はない)

 

近年の特別支援教育の拡がりによるものか、障害や心身の問題がある子どもについては相談、指導につながっているという点は一つ安心できる傾向とも解釈できるかもしれません。一方で、家庭に問題がある、あるいはひとり親や共働きなど、家庭に余裕がない場合には相談、指導にも繋がりにくい現状は、学校をはじめ地域含めたコミュニティでの支援がより一層必要であることを示唆していると考えられます。

上記の3つの目的に付随して、児童生徒及び保護者のニーズについても調査が行われております。
ブログの分量が増えてしまう為、ニーズについてはまた記事を分割してまとめられればと思います。

 「不登校の要因分析に関する調査研究」 まとめ

私自身内容をしっかりと把握したい、という思いもありかなり長くなってしまいました。
読みづらい部分があったら申し訳ございません・・・。

調査の結果として「教師の主観的結果と児童生徒による結果が大きく異なった為、国の調査方法の見直しを行うこと」が大々的にもニュースに取り上げられております。

このことにより、

  • 従来までの不登校の主要因は「無気力・不安」という個人要因によるものであるという認識
  • いじめや教師との関係が不登校のきっかけとして軽視されていたこと

が改善されることは、子どもたちを正しく理解するうえでとても重要なことのように感じます。

しかし一方で、以下のような本調査で明らかになった点や支援の方針も(こそ)多くの人の目に留まるべきことのように思います。

不登校の子どもの約7割が心身の不調をきっかけとして挙げている為
まずは無理をさせずにまずは休ませること
不登校の子どもの約5割が学業に関する困難を抱えていることを認識し、個別の支援等も視野に入れること
発達障害をはじめ、「感覚の敏感さ」や「制服、給食、行事等への不適応」といった子どもの性格や特性と学校環境の不一致も、不登校の原因となりうることを理解し、子どもの特性の理解を進めること
いじめや教師との関係といった学校での問題は従来の認識より多い為、早期発見や予防といった支援が求められること
家庭になんらかの問題がある場合、不登校時に相談、指導につながりにくいこと

 

本ブログが調査結果の内容を把握する一助になっていれば幸いです。

 

以下の記事で文部科学省の調査結果も記載されておりますので、比較する際にぜひご覧ください。