今回ご紹介するのは、
「発達障害大全 ― 「脳の個性」について知りたいことすべて」です。
発達障害については、専門書や一般書などさまざまな書籍から勉強させていただいておりますが、
本書については書店でたまたま出会った際、
「一般書でこの厚さ!」と少し驚いてしまうほどの全687ページの内容量が印象的でした。
しかし一度読み始めると、インタビューをベースとしていることもありとても読みやすく、
おすすめの一冊になりました。
本記事では、おすすめのポイントや特に勉強になった点について整理させていただきます。
「発達障害大全」レビュー
子どもを持つ編集者の著者が、発達障害にさまざまな角度から接点を持つ方々へのインタビューを通して、発達障害の全貌を明らかにしようとする一冊です。
先に結論から申し上げると、著者もおっしゃっている通り
「発達障害は調べれば調べるほどわかりません」。
しかし、その複雑で実態のないものを理解するためには、
本書の多様な方からの視点・意見を取り入れられていることこそが重要で、
発達障害について知ろうとした時、まず読む一冊としておすすめな理由です。
それでは上記おすすめポイントをもう少し説明します。
外側からの視点、内側からの視点
外側から、内側から学ぶということが一つのテーマにもなっており、
医師や研究者、教育者である専門家の外側からの視点、
発達障害の診断を受けた当事者の内側からの視点、
両者のインタビューを中心に構成されております。
協力者一覧はamazonの説明文に記載がありますので、ご興味ある方はそちらからご覧ください。
著名な専門家たちの、様々な視点
私が特に感銘を受けたのが、
本書を監修されている方々は、発達障害に関して多くのベストセラーの書籍を出されている、
いわば発達障害のスペシャリストの皆様です。
その専門家の皆様の間でも時には異なる意見を持たれており、その両方の意見を一冊の中で取り入れることができるのが、この書籍の他にはない素晴らしい点だと感じます。
以下、本書に意見を寄せられている皆様の説明文を抜粋し、代表的な書籍を併せてご紹介します。どの本も一度は見たことがあるのではないでしょうか?
医師(監修者)
- 岩波明氏 | いわなみあきら氏(精神科医)
ADHD(注意欠如多動症)研究の第一人者。日本初のADHD外来を立ち上げ、「大人の発達障害」の存在に光を当てた。 - 宮口幸治氏 | みやぐちこうじ氏(児童精神科医)
『ケーキの切れない非行少年たち』などの著作で、「軽度知的障害」や「境界知能」の問題に光を当てた。created by Rinker¥836(2024/12/06 10:26:04時点 楽天市場調べ-詳細) - 高橋孝雄氏 | たかはしたかお氏(小児科医)
慶應大学医学部などで40年以上、小児科の臨床現場に立ってきた。優しく的確な子育ての助言に定評がある。created by Rinker¥880(2024/12/07 01:25:09時点 楽天市場調べ-詳細) - 本田秀夫氏 | ほんだひでお氏(精神科医)
ASD(自閉スペクトラム症)研究の第一人者。発達障害の子どもを成人期まで診療した臨床経験を豊富に持つ。created by Rinker¥880(2024/12/07 01:25:09時点 楽天市場調べ-詳細)
意見が分かれやすいポイント
上記の先生方の間でも意見が分かれる点について抜粋します。
それぞれの詳細な意見は、是非本書をお手に取ってご確認いただければと思います。
❶発達障害を診断するタイミング
- 特性が見られれば、早い時期から診断を下す
- 小学校入学前の4歳あたりから診断をする
- 早期診断には慎重な姿勢
など、医師の先生方の中でも意見が分かれます。
- 早期に診断することで、環境調整がしやすく自尊心を守れる、という考え方もあれば、
- 早期診断により早期から親御さんの心配が始まるだけになりかねない、という指摘もあります。
❷普通校か、特別支援学校か
- 普通校に通っている場合、周りにもまれる為に自立している傾向がある
- 特別支援学校に通っている場合、リーダや主役になりやすいことで自尊感情が育まれやすい
それぞれにメリットデメリットがありますし、子どもの個性によってもどちらの学校でメリットを享受できるのか、デメリットの方が大きいのかも異なります。
どちらにしても単一の正解はないことを理解しておくことが重要になります。
「発達障害大全」感想
発達特性のある子どもたちを支援するには、進学・就職など長期的な展望を持ちながら、
目の前の選択をしていくことが求められます。
本書では多様な視点から、以下のような生涯にわたるトピックを一つ一つ取り扱ってくださるので、
全体像を把握するためにとても有用であると感じました。
・子どもの頃の診断、療育
・学校での支援
・進学準備、進路選択
・就職、働き方
発達障害はその人が生まれ持った特性単独では診断はされず、
社会との関わり、そして当事者の主観によって名前がつけられる、
ある種とても曖昧なものです。
にも関わらず、その診断は人生に大きく影響を与えるのが現状です。
診断というものが、
“自分とは異なる”と区別する為の「レッテル」ではなく、
むしろ”相手の理解を深め、距離を縮める”為の「マーク」であったら良いなあと思います。
そしてそうする為には、
当事者の方、ご家族の方のみならず、その周囲の方々の発達障害(と今は名付けられている)、
個性への理解が深まっていくことを願いつつ、私自身勉強を続けていきます。
おまけ 専門家の皆様の書評抜粋
上記でご紹介いたしました専門家の皆様の書籍ですが、私もいくつか拝読し書評にまとめておりますので以下リンクを貼っておきます。
- 宮口幸治氏の代表作、「ケーキの切れない非行少年たち」
- 本田秀夫氏の最新作、「知的障害と発達障害の子どもたち」2024年3月7日発売
最後に、本書では紹介されていない先生の著書になりますが、発達障害については「ニューロダイバーシティ」の捉え方が個人的にはとてもしっくりくるので、以下おすすめ記事も貼っておきます。