令和6年10月31日(木)、文部科学省が毎年実施している
「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」の令和5年度版が公開されました。
今回の調査については、昨年度文部科学省の委託を受けた公益社団法人「子どもの発達科学研究所」が実施した「不登校の実態調査の結果」の結果をふまえ、調査項目/方法が変更されております。
調査結果についてもまとめたいのですが、それは別途記事にするとして…
今回は調査項目/方法が変わった点について過去記事を参照しつつご説明いたします。
「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」は、「暴力行為・いじめ・出席停止・長期欠席(不登校等)・中途退学等・自殺」等の項目で児童生徒の実態調査を行うものになります。「不登校」についての現状等を認識する際にも、参考にされることが多いデータになります。(一方でこのデータの信頼性・妥当性について以前から疑問視する声もありました。)
「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」 変更点について
変更箇所、変更背景について順を追ってご説明します。
変更箇所
まず、今回の主な変更点は「不登校の要因」に関する項目になります。
今年度より、項目名自体も「不登校の要因」から「不登校児童生徒について把握した事実」に変更となっております。
その他大項目、項目名の変更点については以下の表で比較します。
*青字が削除された項目、赤字が追加になった項目です。
令和4年度 | 令和5年度 | |
項目名 | 不登校の要因 | 不登校児童生徒について把握した事実 |
大項目 | 学校に係る状況・家庭に係る状況・本人に係る状況 | 削除 |
項目名 | いじめ | いじめの被害の情報や相談があった。 |
いじめを除く友人関係をめぐる問題 | いじめを除く友人関係をめぐる問題の情報や相談があった。 | |
教職員との関係をめぐる問題 | 教職員との関係をめぐる問題の情報や相談があった。 | |
学業の不振 | 学業の不振や頻繁な宿題の未提出が見られた。 | |
進路に係る不安 | 該当項目なし | |
クラブ活動・部活動等への不適応 | 該当項目なし | |
学校のきまり等をめぐる問題 | 学校のきまり等に関する相談があった。 | |
入学・転編入学・進級時の不適応 | 入学・転編入学・進級時の不適応による相談があった。 | |
家庭の生活環境の急激な変化 | 家庭の生活環境の変化に関する情報や相談があった。 | |
親子の関わり方 | 親子の関わり方に関する問題の情報や相談があった。 | |
家庭内の不和 | ||
生活リズムの乱れ・あそび・非行 | 生活リズムの不調に関する相談があった。 | |
あそび、非行に関する情報や相談があった。 | ||
無気力・不安 | 該当項目なし | |
左記に該当なし | 該当項目なし | |
該当項目なし | 学校生活に対してやる気が出ない等の相談があった。 | |
該当項目なし | 不安・抑うつの相談があった。 | |
該当項目なし | 障害(疑い含む)に起因する特別な教育的支援の求めや相談があった。 | |
該当項目なし | 個別の配慮(障害(疑い含む)意外)についての求めや相談があった。 |
上記ご覧いただくとわかるように、以下のような変更が行われたことがわかります。
- “教員の判断”という主観的な回答から、“把握した事実”という客観的な回答に変更
- 「生活リズムの乱れ・あそび・非行」が「生活リズムの不調」・「あそび・非行」に関する相談の項目が分割
- 「学校生活に対してやる気が出ない」「不安・抑うつ」「障害(疑い含む)に起因する特別な教育的支援」「個別の配慮(障害(疑い含む)以外」についての相談の項目が新規に追加
驚くべきことに、新規に追加された上記の4項目は合計すると、
72.2%にのぼります。(複数選択可のデータ/%は児童生徒数に対する回答の%)
したがって、従来の調査結果では把握できなかった72.2%の児童生徒の状態が明らかになったということが言えます。
変更背景
今回の変更に至った背景としては、
昨年度、文部科学省が委託調査を行った結果、教師、児童生徒本人、保護者の三者間で回答を比較したところ、それぞれの認識に差があることが明らかになった点が挙げられます。
この結果を受け、従来の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」における、学校(教師)の認識による回答方法の見直しが必要であると判断され、
今回発表された、把握した事実に基づく回答方法に変更となりました。
2024年3月26日(火)には、文部科学省が「問題行動・不登校調査の手法を見直す方針」を発表しており、その際に以下記事にしておりますので、詳細ご確認されたい方はご覧ください。
また、変更の根拠となった「不登校の実態調査」の内容については、以下記事でまとめております。
「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」 変更点 まとめ
今回は「不登校の原因(不登校児童生徒について把握した事実)」の変更を主に取り上げましたが、それとは別に「長期欠席者数」の欠席日数による区分についても以下の変更がなされています。
- 理由別長期欠席者数(p.75)の内訳に「50日以上欠席している者」が追加
- 不登校の欠席者数の区分(令和4年度):
90日以上, うち出席日数が10日以下の者, うち出席日数が0日のもの - 不登校の欠席者数の区分(令和5年度):
50日以上, 90日以上, うち出席日数が10日以下の者, うち出席日数が0日のもの
*「新型コロナウイルスの感染回避」の項目は令和5年度からは削除されました
- 不登校の欠席者数の区分(令和4年度):
以前までは不登校(文科省の定義では年間30日以上)の児童生徒数のなかで、
50日以上の生徒の区分も追加されたことでより細かく児童生徒の様子が把握できるようになりました。
様々な背景があるなかで、「正確に実態を把握する」ことは限りなく難しいですが、
今回の変更内容は、
今まで把握できていなかった多くの児童生徒が抱えていた困りごとが明らかになった
という意味で、大きな前進であるように感じました。
▶️文中でご説明した、72.2%の児童生徒が、「学校生活に対してやる気が出ない」「不安・抑うつ」「障害(疑い含む)に起因する特別な教育的支援」「個別の配慮(障害(疑い含む)以外」についての相談をしていたという結果をうけて
次回は、調査内容についても、過去調査と比較して読み解いていければと思います。